Alexander Rodchenko アレクサンドル・ロトチェンコ




Alexander Rodchenko
アレクサンドル・ロトチェンコ


ロシア, 1891-1956

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Alexander Rodchenko アレクサンドル・ロトチェンコ

アレクサンドル・ミハイロヴィチ・ロトチェンコは、ロシア革命後のソビエト連邦に誕生した、もっとも多才なロシア構造主義のアーティストのひとりです。近年、日本でも展覧会が開催されるなど注目を集めたので、斬新でポップなデザインのポスターを制作したロシア・アヴァンギャルドの作家というイメージが強いかもしれません。しかしその才能は絵画、グラフィックデザイン、椅子やお菓子の包み紙などのデザイン、舞台装置、写真など、幅広い分野で開花したのです。

ロトチェンコは1891年、当時の帝政ロシアの首都サンクトペテルブルクに労働者階級の子として生まれました。18歳のときに父親が亡くなり、一家はロシア東部の都市カザン(現タタールスタン共和国)に転居。翌年カザン美術学校に入学し、絵の勉強を始めました。その後、モスクワのストロガノフ研究所で絵画を続け、初の抽象絵画を制作。抽象絵画として有名なシュプレマティスムの画家、カジミール・マレーヴィチの影響です。

ロトチェンコの絵画はキュビスムや、未来派と呼ばれるイタリアの芸術運動、そしてマレーヴィチに代表されるシュプレマティスムに強く影響されたものでしたが、ロシア構造主義の代表的な作家の一人ウラジーミル・タトリンに師事することでその作品は次第にデザイン的要素を強めていきます。筆の自由な動きによる感情表現を徹底的に排除するため、コンパスや定規を用いて絵画を制作することもありました。


Alexander Rodchenko アレクサンドル・ロトチェンコ

1921年、30歳のときに構造主義グループのメンバーとなり、「日常生活に密着したアート」を提唱します。絵画をやめ、ポスターや本の装丁などのグラフィックデザイン、日用品のデザインを手がけるようになりました。

さらに第一次世界大戦後のヨーロッパで、戦後の虚無感から独自の芸術運動が発生しました。それがダダイスムです。ロトチェンコはダダイズムの特徴のひとつでもあるフォトモンタージュ(合成写真)に感動し、自分自身もカメラを使ったさまざまな試みを開始。その写真作品は不要なディテールをそぎ落とし、ダイナミックな斜めの構成を強調するなど、シンプルで刺激的な構図を特徴としています。

1930年代後半からは再び絵画に戻り、1942年になると写真撮影をやめてジャクソン・ポロックに代表される抽象表現主義的な絵を描くようになりました。1956年、モスクワで死去。65歳でした。


Alexander Rodchenko アレクサンドル・ロトチェンコ

いちばん始めに紹介した写真がラズロ・モホリ=ナギ、またはアンドレ・ケルテスの作品だと言われたら、「なるほど」と信じてしまう人は意外と多いかもしれません。しかし、1920年代以前に撮影されたものだと言われても、さすがに誰も信じないでしょう。それほどにこの作品は1920年代的といえます。

この世界は自分の眼にどのように映るのか、どのように見せるのかという点について、芸術家たちが新たな可能性を模索し始めた1920年代。この写真はそうした時代のフレッシュな息吹をいまだに内に秘めているかのようです。

第一次世界大戦後の混乱と再建、発展のなかで、アメリカは大量消費時代に突入し、ジャズが大流行。ヨーロッパ美術は表現主義からシュルレアリスムへと変化を遂げていきます。一方、ロシアでは、1917年のロシア革命からソビエト連邦成立に至る歴史に歩調を合わせるかのようにロシア構造主義という芸術運動が生まれました。

極端に高い位置から見下ろしたり、低い場所から見上げたり、または奇妙な視点からの構図は、現在では珍しいものではありません。しかしロシア構造主義のアーティストたちにとっては新鮮な発見だったのです。ロトチェンコにとってそれらは自由や近代化を表現する手段でした。そして、見慣れた物体を見慣れない角度から見ることによって何かを感じるように私たちをいざなっているのです。

この写真の中庭も、ロトチェンコにとっては見慣れた場所でした。これは彼が住んでいたモスクワのアパートのバルコニーから撮影されたものです。

画面の両側に配した暗い建物とその真ん中の明るい中庭というシンプルなストライプが、深みと平面の完璧なバランスを保ち、さらにそのシンプルな骨組みのなかに見られる人々の不規則な動きがこの写真に躍動感を与えています。階下のバルコニーと中庭を絶妙な配置で撮影するために、ロトチェンコはバルコニーの手すりから身を乗り出すようにしなければならなかったはずです。


Alexander Rodchenko アレクサンドル・ロトチェンコ

とはいえ、高い位置から見下ろす構図は、1920年代においても特別斬新だったわけではありません。彼がこだわったのは、構図そのものよりもその位置から自分が何を見ているかという点です。アレクサンドル・ロトチェンコはこの写真のタイトルを「Assembling for a Demonstration(デモ行進のための集合)」と名づけました。

しかし主題であるはずのデモ行進の人々は画面上部のあまり目立たない存在であり、まず目に付くのはバルコニーから下を見下ろす女性や掃除をしている女性、眼のくらむような高所からの視点、そして中庭の光景です。中庭においてデモ行進の人々よりも重要なのは、道路の掃除人たちが水をまいて掃除した跡がしみのように残っているその模様のようにも思えます。

画面を構成するパーツの視覚的な重要度にあえて反するタイトルを付けたのは、ロトチェンコ一流の「違った角度からものごとを眺める」センスなのかもしれません。





アレクサンドル・ロトチェンコ / キュレーターおすすめの写真集
Aleksandr Rodchenko: Painting, Drawing, Collage, Design, Photography

1998年、ニューヨーク近代美術館にて開催されたアメリカ初の回顧展を記念して出版されました。写真、絵画、デザイン、フォトモンタージュ、ポスターなど、あらゆる作品を網羅しています。



Alexander Rodchenko: Photography 1924-1954

1996年に出版。ロトチェンコの写真作品に焦点をあてた一冊です。孫にあたるアレクサンドル・ラフレンティエフ氏が提供した400枚以上の作品を見ることができます。



The Struggle for Utopia: Rodchenko, Lissitzky, Moholy-Nagy : 1917-1946

ロトチェンコと、彼と同時代に生きた2人のアーティストであるエル・リシツキー、ラズロ・モホリ=ナギの作品を通じて、彼らの社会的な理想と同時に直面しなければならなかった現実に迫る意欲作。



Alexander Rodchenko: The Experiments For The Future: Dairies, Essays, Letters, and Other Writings

1911年から1956年の間にロトチェンコ自身によって書かれた日記、手紙、エッセイ、雑誌などに寄稿された記事などを紹介しています。



アレクサンドル・ロトチェンコのことば・名言集
  • 写真撮影においては、異なる視点、異なる状況からいくつかの異なるショットを撮影しなければならない。同じ鍵穴から何度も覗くよりも、あらゆる角度から多角的に調べたほうがいいのと同じことだ。
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