Bruce Davidson
ブルース・デビッドソン


アメリカ, 1933-

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Bruce Davidson ブルース・デビッドソン

ブルース・デビッドソンは1933年、イリノイ州オーク・パークで生まれました。シカゴ近郊のこの村は、作家アーネスト・ヘミングウェイの出身地としても知られています。写真を撮り始めたのは7歳のとき。「同じ年頃の子どもはみな犬を飼いたいと両親にねだったが、私だけカメラを欲しがった」といいます。1952年、19歳のときにコダックが主催する高校生写真コンテストにフクロウの写真を出品し、最優秀賞を受賞しました。高校卒業後は、ロチェスター工科大学(ニューヨーク州)とエール大学(コネチカット州ニューヘイブン)で写真学や映像技術を学びました。

大学卒業後は軍隊に徴兵され、パリ近郊に配属されました。彼はそこでマグナムの創設者の一人であるアンリ・カルティエ=ブレッソンと出会います。24歳で除隊になると、初めはフリーのカメラマンとしてLIFE誌に発表していましたが、翌年マグナムの正式メンバーに加入しました。それから3年の間に、「Brooklyn Gang(ブルックリン・ギャング)」「The Dwarf(小人)」「Freedom Rides(フリーダム・ライド)」といった代表的なシリーズを制作しています。2009年に発表されたボブ・ディランのアルバムには、「ブルックリン・ギャング」の写真がジャケット写真として使われています。


Bruce Davidson ブルース・デビッドソン

29歳でグッゲンハイム助成金を得てアメリカの公民権運動を取材し、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で個展を開催しました。1967年には国からの助成金を受けます。写真の分野では初めてのことでした。そして2年間かけて、ニューヨークでも貧しい人びとが暮らし、治安が悪くて有名だったイーストハーレムを大型カメラで撮影。2年間、ほぼ毎日のようにイーストハーレムのブロックに通い、歩道に立ち、家々のドアをノックして、住人たちや住居の写真を撮らせて欲しいと許可を求めたのです。その作品は「East 100th Street(東100番街)」というタイトルの写真集として出版され、彼の代表作となりました。

1980年代には地下鉄、90年代に入るとセントラル・パークと、ニューヨークを題材にした作品を発表し、特に大都会の影の部分や日常生活のさまざまな表情をとらえました。最近ではパリやロサンゼルスの植物など、都市のなかの自然をテーマにした写真集を制作するなど、80歳を超えた現在でも精力的に活動しています。


Bruce Davidson ブルース・デビッドソン

ダゲールが銀板写真と呼ばれる写真撮影術を発表したのが1839年。以来、写真の歴史とは、絵画表現をひたすら追い求めた歴史といっても過言ではありません。400年以上も昔のルネサンスやフランドル派の画家たちが完成した絵画のスタイルを、なんとか写真で再現できないか。これが写真誕生の瞬間から写真家たちが背負わされた宿命的な課題だったわけです。

写真と絵画との決定的な違い、それは一枚の写真のなかに、複数の要素を、それぞれ完璧な状態で収めることがほぼ不可能だということです。

例えば、葛飾北斎の有名な浮世絵「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」を思い浮かべてみましょう。ダイナミックな波のうねりと高速シャッタースピードでとらえたような波頭や飛沫。必死に船をこぐ人びとは時が止まったかのように、または波に張り付いてしまったように硬直して見えます。嵐で荒れ狂う海のはるか彼方では、富士山がくっきりと、ピントもぴたりと合ってそびえています。さらにはブルーの海と対照的な柔らかいピンクの空。これらの要素が完璧な構図で収まっています。これを写真で再現するのがどれほど困難なことかは明白ですが、一部の写真家たちは「絵画のように完璧な」写真を制作しようと最大限の努力を払ってきました。

ところが、その意味では写真は常に失敗の連続でした。明るい空は真っ白に見え、影は真っ黒につぶれています。葉っぱは風がちょっと吹いただけでピンぼけ、または日光が当たれば「白飛び」してしまいます。山も石像も、逆光で撮影するとただの黒いかたまりのようです。画面の隅々までピントの合った写真にするのは不可能に近いことでした。


Bruce Davidson ブルース・デビッドソン

19世紀末、一般のアマチュア写真家の台頭によって、写真と絵画の差はさらに劇的に広がりました。ジョージ・イーストマンが発売したコダックのカメラが原因です。「あなたはシャッターを押すだけ、あとはコダックがやります」という有名な宣伝文句とともに登場したコンパクトなカメラは、誰でも簡単に扱えるという利点がありましたが、同時に画質では従来の大型カメラに遠く及ばなかったのです。しかしながら、これら素人アマチュアカメラマンの作品は非常に純粋であり、絵画の呪縛から解放された写真の本質をほのめかしていました。

アマチュアカメラマンたちが偶然に提示した手がかりをもとに、優れた写真家たちが新しい試みを始めるまでには長い年月を要しました。そして、それは写真の新たな冒険の始まりでもありました。「絵のように綺麗な写真」ではなく、写真にしかできない写真らしい表現の追求という冒険です。以前は避けるべき欠点と考えられていた写真の特徴は、いまやポテンシャルを秘めた手段となり、写真に新たな豊かさを与えました。写真家はこうして自分の経験や感覚を写真で表現することができるようになったのです。

ニューヨークのスラム街や公民権運動に飛び込み、社会からはみ出した人々弱者と向き合い、相手に敬意をもって撮影したブルース・デビッドソンは、新しい写真表現を開拓してきた写真家のひとりといえるでしょう。





ブルース・デビッドソン / キュレーターおすすめの写真集
Bruce Davidson: East 100Th Street

1070年に発表されたブルース・デビッドソンの代表作。2003年に再販されたこの写真集は、未発表の20枚も含みます。機会があればぜひ手にとって欲しい一冊です。



Brooklyn Gang: Summer 1959

1959年に発表された初期の作品。ニューヨークのブルックリンに集まる「ジョーカー」というストリートギャングを中心に取材しています。当時のファッションや流行が味わえるとともに、社会からドロップアウトした若者たちへのデビッドソンのまなざしを感じます。



Bruce Davidson: Subway

1980年代のニューヨークの地下鉄をテーマにした写真集。地下鉄のホームや階段、車窓、さまざまな人種や階級が入り乱れる乗客たち。生き生きとしたカラー写真でとらえた傑作です。



Bruce Davidson: Circus

1960〜60年代に撮影されたサーカスの写真集。未発表作品を中心に構成されています。



Central Park

ニューヨーク、セントラルパークをテーマにした写真集。大都会のなかの自然や、そこで見られる人々の姿が描かれています。1991-95年撮影。




ブルース・デビッドソンのことば・名言集
  • 私の写真の大部分は思いやりにあふれ、優しく、そして個人的なものだ。鑑賞者は、思い思いにそれを見る。説教はしない。それに芸術ぶったりもしない。
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