
Andre Kertesz
アンドレ・ケルテス

アンドレ・ケルテスは1894年、ハンガリーのブタペストで生まれました。ブタペスト証券取引所で働いていましたが、18歳のときに小型カメラを買い、写真を撮り始めました。
最初はブタペストの風景写真などを撮影していましたが、第一次世界大戦で召集を受け、軍隊生活のなかでも撮影を続けました。
戦後はパリ、続いてアメリカ・ニューヨークへと移り住み、ニューヨークで91年の生涯を終えました。

アンドレ・ケルテスは、おそらくどの写真家よりも小型カメラのもつ優れた特長を見出し、それを示すことに成功した写真家でしょう。
小型カメラが誕生したとき、人々は「こんな小さな機械ではプロ写真家の要求に応える写真を撮ることはできない」と考えました。つまり、大判カメラが果たしてきた役割をその小さな機械にも押し付けようとしたのです。大判カメラは前もって慎重に分析し、計画的な写真を撮影するのには適しています。
しかし、アンドレ・ケルテスはもともとそういった「計算された写真」には興味がありませんでした。1912年に写真を撮り始めて以来、彼は簡潔で、思いがけない一瞬、二度と再現されることのないはかない瞬間を捕らえることを追求してきました。
このため、1925年に世界初の35mmカメラ「ライカ」が発売されたとき、まるで自分のためにつくられたカメラのように感じたでしょう。

同じくハンガリー出身の写真家モホリ=ナギと同様に、ケルテスもまたパターンや奥行きのある写真を好みました。
左の写真では、画面の右半分のライン、つまり階段の手すりの影からなる線は階段の下方の「消点」に向かって集中し、奥行きを感じさせます。
一方、画面左上の樹木の影はクモの巣のような奥行きの浅いパターンを形成し、歩行者はまるでハエのようにクモの巣にぶら下がっているようにも見えます。

こうした小型カメラの特性を活用した、ケルテス独自のすぐれた才能に加えて、彼の作品にはもうひとつ、見逃せない大きな特徴があります。それは決して技術的には容易に分析できない特徴ですが、間違いなく重要なポイントです。
それは人生の甘美な感覚であり、世界の美しさを子どものように自由な感性で楽しみ、視覚的に表現した点です。
アンドレ・ケルテスの写真は、ブラッサイやアンリ・カルティエ=ブレッソンなどの写真家にも多大な影響を与えています。
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ケルテスの生涯の作品を網羅した写真集。ハンガリー、フランス、アメリカと主に3つの時代にわけて構成されています。専門家によるテキストも充実。ケルテスとじっくり向き合いたい方は必携です。
- 見るだけでは十分ではない。感じて撮影しなければ。