
Josef Koudelka
ヨゼフ・クーデルカ
ヨゼフ・クーデルカは1938年、チェコスロバキアに生まれました。
1962年から1970年までは劇場写真などを撮影するフリーの写真家でしたが、1970年イギリスに亡命し、71年にマグナムに入り、アンリ・カルティエ=ブレッソンらと共に仕事をしてきました。
ヨゼフ・クーデルカは、人生の多くの時間を東ヨーロッパのロマ(ジプシー)の撮影に費やしてきました。
依頼を受けて撮影したわけではなく、また、世界に貢献できると思ったからでもなく、ロマという題材が無尽蔵に魅力的だと悟ったからであって、またおそらく西暦1000年ごろに彼らがヨーロッパにたどり着いて以降、定住化政策やナチスによる迫害、コソボ紛争などによって人口が激減し、苦難の生活を強いられてきたからというのも理由のひとつでしょう。
クーデルカの写真の多くはロマの日常生活に関わる貴重な資料という側面を含んでいますが、彼はそのような文化人類学的なデータを収集することが目的だったわけではありません。
そうではなくて、人間の価値の原型といえるものを眼に見える形で抽出することを目指しているように思えます。そのなかには例えば勇敢さ、かけがえのない友情、ほろ苦い孤独などが含まれます。
クーデルカの写真が織り成す人間模様は、静寂なる叙事詩にも等しいのです。
上の写真は、その主題が非日常的な事件を扱っているという点では、クーデルカの写真としては少し毛色が違っているかもしれませんが、古い子守唄のリズムが似合いそうな、神話めいていてざらついた雰囲気の叙情性は彼の作品に共通するものです。
写真の青年は殺人の罪で有罪となり、処刑場へと連行されるところです。同行しているはずの役人は写真には写っていません。このため青年は自ら進んで一人で最期の場所に向かっているように見えます。
両腕が手錠によって身体の前で束縛されているために、彼の身体の輪郭をなぞると棺桶の形が浮かび上がります。地面に刻まれたトラックのタイヤの跡は、青年の首に結び付けられ、前方へと引っ張っていくロープのようです。
傾いた構図のために、青年の身体は後方によろめいているように撮影されていて、そのことで彼が感じている恐怖がいっそう身に迫ってきます。

