
Nadar
ナダール

ナダールは作家であり、風刺画家であると同時に気球に乗り、ときには政治活動もし、写真家でもあり、ナポレオン3世の時代のパリで画家、作家、知識人らと親交がありました。彼が写真家として認識されているのは、同時代の偉人たちのポートレートを多数撮影しているからです。

ナダールは画家たちから多くを学び、その手法を盗み、活用しました。
右のポートレートはテイラー男爵を撮影したものですが、手やコートの質感などは、当時のフランスの古典派画家の影響を感じさせます。
しかし、もし画家が男爵の肖像画を描くのであれば、消化不良によるしかめっ面をそのままカンバスに写し取ることはしなかったはずです。
彼が撮影したポートレートは無限の真実に満ちていて、画家には真似することのできないものでした。写真の正確さという恩恵を非常に受けながらも、一方で女性のポートレートを撮ることを嫌いました。なぜなら「あまりに真実を映し出してしまうので、女性が喜ばない、たとえものすごい美人でも」だからです。

このテイラー男爵のポートレートはウッドベリータイプという技法でプリントされています。凹彫された鉛のプレートから出されるインクによって画像をプリントする技法ですが、現在使われているシステムとは異なり、ハーフトーンスクリーン(網点)を使用しないために連続したグレーのグラデーションを表現することが可能でした。
ウッドベリータイプのプリントは美しく耐久性に優れ、一枚の金属板から数百枚のプリントを作成できたため、当時は画期的な技法でしたが、残念なことに19世紀後半にハーフトーン印刷が導入されたため、忘れ去られました。

1874年、ナダールは芸術の歴史において、ちょっとした足跡を残しました。自分のスタジオを使って、当時反体制といわれていた画家たちの展覧会を催しました。展覧会は失敗だったと伝えられています。画家グループのひとり、ルノアールはこういっています。
「あの展覧会から我々が得たものは、”印象派”というレッテルだけだ。私はその呼び方が大嫌いだ」
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- 私の最上のポートレート作品は、私がよく知る人物のものだ。