Robert Capa ロバート・キャパ




Robert Capa
ロバート・キャパ


ハンガリー〜アメリカ, 1913-1954

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Robert Capa ロバート・キャパ

1938年12月3日、イギリスの写真週刊誌『ピクチャー・ポスト』は「世界で最も偉大な戦争写真家:ロバート・キャパ」という特集を組み、スペイン内戦時に撮影された26枚の写真を紹介しました。しかし、この「世界で最も偉大な戦争写真家」が憎んだものは、戦争でした。

ロバート・キャパは1913年にハンガリーのブダペストに生まれました。本名はアンドレ・フリードマンといい、両親は洋服店を営むユダヤ人です。ベルリンの大学で政治学を学んでいましたが、ナチスによるユダヤ人排斥が日増しに激化するなかでベルリンを脱出し、1933年パリに移住しました。

彼はパリでユダヤ人女性ゲルタ・ポホイルと出会い、恋に落ちます。ふたりはパリで同棲し、アンドレはゲルダに写真術を教えました。間もなくふたりは「ロバート・キャパ」という架空の有名アメリカ人写真家を創り上げ、「ロバート・キャパ」名義で自分たちの写真を売るようになりました。その後もアンドレはロバート・キャパの名前を使い続け、ゲルダは「ゲルダ・タロー」と名乗り、単独でも活動を始めます。この時代、キャパはパリでパブロ・ピカソやアーネスト・ヘミングウェイなどの芸術家と出会い、後に『マグナム』の創設メンバーとなるデヴィッド・シーモアやアンリ・カルティエ=ブレッソンとも友情を深めました。


Robert Capa ロバート・キャパ

1936年にスペイン内戦が勃発すると、ロバート・キャパの写真は頻繁に発表されるようになります。なかでも「崩れ落ちる兵士」の写真は世界的に有名になり、戦争のシンボル的存在となりました。近年、この写真は兵士が撃たれた瞬間を撮影したのではなく実際には転んだだけだった、または演技だったなどさまざまな論争を呼び、撮影したのもキャパ(アンドレ・フリードマン)ではなくゲルダ・タローのほうであるという説が有力です。

そのゲルダ・タローは1937年、スペイン内戦取材中に26歳で亡くなりました。翌年、キャパは日中戦争の取材で中国を訪れ、さらにその1年後、ニューヨークに移り住んで永住権を取得しました。第二次世界大戦勃発とともに『ライフ』誌のヨーロッパ特派員としてヨーロッパ戦線を取材、撮影しました。特に1944年6月6日のノルマンディー上陸作戦での従軍取材の作品は有名で、自著のタイトル『ちょっとピンぼけ』の由来ともなっています。

1947年、キャパはカルティエ=ブレッソン、デヴィッド・シーモア、ジョージ・ロジャーらとともに写真家集団『マグナム・フォト』を設立。1954年、『ライフ』誌の依頼で第一次インドシナ戦争を取材するため、インドシナ(現在の北ベトナム)に入国しましたが、取材中に地雷に触れ死亡しました。41歳でした。彼の死後、フランス軍はその功績を称えて、軍事勲章であるクロワ・ド・ゲール勲章を授与しました。1955年にはロバート・キャパ・ゴールドメダル賞が設立され、毎年功績のあった優れたフォトジャーナリストに贈られています。


Robert Capa ロバート・キャパ

ロバート・キャパの41年という短い生涯は、5つの戦争を撮影することに捧げられました。1936年のスペイン内戦に始まり、1954年の第一次インドシナ戦争で地雷に触れたことによりその幕を閉じたのです。戦争に次ぐ戦争、常に世界のどこかで戦争が引き継がれているかのような時代。その規模は拡大したり、縮小したりを繰り返しながらも、永遠に終わることを知らないかのようでした。

こうした時代を生きた戦争写真家として、皮肉にもキャパにはひっきりなしに仕事が舞い込み、戦争以外のテーマの写真を極める時間はほとんどありませんでした。しかしながら、戦争とは戦闘行為だけではないということをキャパはよく理解していました。そして彼が撮影した魅力的な写真の多くは戦場以外で撮影されたものです。

ここに紹介した写真は、第2次世界大戦中ナチス占領下にあったフランスのシャルトルという都市で、ナチスドイツからの解放直後に撮影されました。画面中央にいる頭を丸刈りにされた女性は、フランス人にとって憎むべき敵であったドイツ兵と恋に落ちたか、あるいは恋愛感情はなかったにせよ関係を持った罪により、このような屈辱的な罰を受けています。戦後の調査により、戦時下のフランスではこうしたドイツ協力者が決して少なくなかったことが明らかになりました。対ドイツ協力者であった女性の髪を切り、生まれたばかりの赤ちゃんとともに公衆の面前にさらすという行為は、新しい秩序の誕生を宣言し、一致団結して再び愛国心を高めようという意図の表れかもしれません。


Robert Capa ロバート・キャパ

この写真が何とも言いようのない恐ろしさを感じさせる理由は、群集の顔に浮かんだ笑みにあります。

キャパ作品のなかでも有名なこの写真は、撮影に至るまでの経緯もよく知られているため、人々は中央の女性を嘲り笑っているのだと私たちはすでに「知っている」のですが、想像してみてください、もしあなたがこの時代の映画を制作する監督だったら、このシーンで周囲の人々にどんな表情をさせるでしょうか。場面に緊張感を持たせるためにも、ビジュアル的に考えても、笑顔ではなく怒りや侮蔑に満ちた厳しい表情をさせるのではないでしょうか。ところが現実には人々は笑っているのです。女性に対する屈辱的で残酷な処罰を受け入れているのです。このキャパの写真をショッキングなものにしているのは、群衆が自ら楽しんでいるという事実です。

人々には自分が笑っているという自覚がおそらくないのでしょう。写真に関する興味深い点のひとつに、私たちが撮影した写真が、想い描いていたイメージとはしばしば一致しないということがあります。写真に写っている自分は腹が出ていて、姿勢が悪く、自慢の我が家は不格好で散らかっていてあか抜けていない、といったように。通常はそれをレンズの歪みだとかシャッターチャンスを外しただとか、カメラや写真の問題にしてしまいます。確かにカメラは自分に都合のいいものだけを記録するわけではありません。多くの知的でないもの、無意味なもの、その場にいた者にしかわからない事実などをカメラは記録してしまいます。しかしながら、私たちは写真から時おり学ぶことがあるのも事実です。物事は私たちが考えている通りとは限らないということを。





ロバート・キャパ / キュレーターおすすめの写真集
Robert Capa: The Definitive Collection

キャパの本格的な全集。キャパの弟コーネル・キャパがセレクトした写真937枚を収録し、キャパが遺した7万枚を超えるネガのコンタクトシートを伝記作家であるリチャード・ウィーランが精査した決定版です。


Heart of Spain: Robert Capa's Photographs of the Spanish Civil War

スペイン内戦を取材した写真作品の集大成。1999年にスペインのマドリードにあるレイナ・ソフィア国立美術館で開催された写真展を機に刊行されました。


ちょっとピンぼけ (文春文庫)

キャパの代名詞ともいえる「ちょっとピンぼけ」。人間ロバート・キャパの魅力が詰まっています。いかに写真を撮るか以前に、人間としていかに生きるべきかを問いかけてくれる名著だと思います。



ロバート・キャパのことば・名言集
  • 戦争写真家としては死ぬまで失業中でいられるといいね。(第2次世界大戦終結時の言葉)
ロバート・キャパ videos (YouTube)
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